北アルプス・南岳新道

2011年8月2日〜4日
本田


 田淵行男をご存じだろうか。山岳写真家である。高山蝶の生活を明らかにした業績もある。
この高山蝶、北海道も入れると日本に数種いる、ただし本州にいるのはただ1種、その名をタカネヒカゲという。この蝶、2500m以上の高地で成虫になるのに冬を過ごすという。
これが、槍ヶ岳と穂高岳の間の比較的ゆるやかな山並みによく見られるらしい。すなわち、大喰岳、中岳そして南岳を結ぶ線上である。
 ぜひ、見てみたいと思った。蝶を見られなくても、その餌(食草という)になるイワスゲやヒメスゲなどの地味な高山植物には出会えるだろうと考え、計画を練った。ふつう、南岳は、穂高と槍を結ぶ縦走の途中で踏むピークだが、自身の経験・体力・技量そしてじっくり観察することを考え南岳に的を絞った。南岳なら新穂高から4時間半ほどで槍平、そこで幕営。次の1日で南岳新道を往復(地図上で往復約7時間)する計画だ。

 8月上旬天気は不安定だったが、8月2日に出発。上高地からの信州側の道と違い飛騨側の静かな蒲田川・右俣の林道を進む。白出沢、チビ谷さらに滝谷を渡る。滝谷の流れはかなり急だ。雄滝をみながら一本橋をわたる。この橋は登山道からかなり上流側に架けられている。滝谷の避難小屋から赤布での誘導があり迷うことはない。最後の南沢も7月の下旬にやっと雪渓が融けたそうで、夏道をしっかり辿ることができた。
 8月3日すぐれない天候のもと出発。テントや炊事道具は置いて出た。いよいよ南岳新道を行く。一言でいうと木の梯子の多いルートだ。この道もはっきりしていて迷うことはない。8時すぎ尾根にでた。日が射してきて、中崎尾根を通して向こうに笠ヶ岳が見えた。昨日歩いた右俣林道もはっきり見える。展望も良さそうだと期待に胸が膨らむ。しかしあちこちに入道雲がこの時間でいくつも見えるのが気になる。西尾根の岩稜をいったん長い梯子で降り、南沢の上部をトラバース。ガレ場を登る。上部になると岩の様子が変わる。茶色っぽく丸い岩が多くなる。いわゆる溶結凝灰岩だ。この拳ぐらいの大きさの岩の隙間でタカネヒカゲの幼虫は冬を越すという。色とりどりだった高山植物も影を潜め、イワスゲやヒメスゲとおぼしき植物が多く見られるようになった、もうすこしで南岳小屋、そして南岳のピークというところでガスが出てきた。
 ガスの切れ目から一瞬ピークが見える。そんな状況の中、それは突然現れた。ひらひらと展望を待ち望む登山者の間を飛ぶ。タカネヒカゲだ。ぽかんと口を開けた私の頭上をそれは飛んでいった。

 この後ガスは晴れることはなかった。獅子鼻から大キレットのほうを望んだが白色の帳だけがうごめいていた。一番の目的は達したが、もう少し展望がほしかったと欲をだしたのが災いしたか、下山途中で本降りの雨となった。雨具上下を着用。木の梯子のルート。濡れてよく滑る。かなり怖い思いをした。20リットルもないようなサブザックを背負っていたから良かったようなものの、これがもし50リットルのザックと考えるとぞっとした。

 槍平からは槍ヶ岳へ向かうパーティが多く、3時には出発していました。南岳新道はほと
んど歩く機会がないと思います。縦走中に何かの原因でエスケープルートとして使ことがあるかと思い報告します。

(本田)